spring has come
いつも行く喫茶店でカレーを頼んだ。
喫茶店と言っても、実際のところは東南アジア系の兄ちゃんが注文も聞かずにいつも頼むメニューを勝手に持ってくるインドカレー屋さんである。
一応コーヒーは出しているし、タバコも吸える。でも、お客が並んでいるときは食べ終わった途端追い出される。インドカレー屋さんである。
ともかく、カレーを頼んだ。いや頼んではいない。
「いつもの?」
と一言確認があったが返答する間もなく、東南アジア系の彼は厨房にオーダーを通していた。僕に決定権などなかった。2年間同じメニューしか食べていないので今更他のメニューを頼むつもりもないのだけれど。
マルボロに火を点けて携帯をいじっていると、カレーが運ばれてきた。
途端、愕然とした。
今の僕はカレーの気分ではなかった。どう考えてもカレーの気分ではないし、なんならお腹もそこまで空いていない。言うならばチョコレートを少しつまみたいくらいの小腹しか空いていない。つーかアイスが食べたい。バニラのやつ。満腹率にして80%、すでに腹八分目。もう〆行きたいのですが。
出された以上、一口も食べないまま残すわけにはいかない。そんなことは日本男児たる僕に根付いたMOTTAINAI精神が許さない。自分が日本男児だと意識したことがこの22年間に一度もなかったとしても、カレーじゃなくてアイスの口だったとしても、すでに腹八分目であったとしても、である。
東南アジア系の彼にこの動揺を悟られまいとタバコを吸いながら、何がこの状況を生み出してしまったのか考えた。
10時のおやつに食べたクッキーのこと。両親の教育方針。モンハンをやっていて夜更かししたせいで少し寝坊したこと。花粉症。何も悪くない。悪いのはアイスの気分なのにカレーしか出さない喫茶店に来た僕なのだ。誰を責めることも恨むことも許されない、「僕が悪い」という純然たる事実が横たわるのみなのだ。
覚悟を決めて食べたマトンカレーは、それでもいつも通り美味かった。店内にいる10人強の客の中で純粋にこの美味さを堪能していないのは僕だけだと思うと、なんだか居住いが悪くなってしまった。
満腹度120%超でぐったりしながら店を出たら、桜みたいななんかが咲いてた。花粉が怖いから外に出てないけどたぶん桜っぽかった。
春が来ますね。